チーム守中コラム〜奇跡

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 小学生の頃のある日、私は兄、弟がいる中、なぜか私一人だけ連れられ、祖母の用事で上野に祖母と二人で行くことになりました。祖母は足が悪かったので、家にタクシーを呼んで柏駅まで行き、常磐線で上野に向かいました。その時のことはほとんど覚えていないのですが、用事を済ませて柏駅から家に向かうタクシーでの出来事に、小学生の私は「奇跡」を感じたのです。

 当時、小学生の間では、文房具屋さんやおもちゃ屋さんで売っている、「探偵手帳」なるものが流行っていました。水に濡らすと溶けてしまう紙や、あぶりだしなど、不思議な機能が備わった手帳です。私は上野に行くということで、おめかししてその手帳をポケットに入れて出掛けました。帰りのタクシーで、その手帳がないことに気付きました。「あ、ない!」と半泣きで騒ぐ私に、祖母から、「また買ってあげるから」となだめられていました。それを聞いていた運転手さんが、「坊や、どうしたんだい?」と話し掛けてきました。手帳がなくなったことを話すと、次の瞬間、「坊や、これかい?」と運転手さんが手帳を見せてくれたのです。そうです、私は行きのタクシーの中で手帳を落としていて、帰りにたまたま同じタクシーに乗ったのでした。柏駅に何十台も並んでいたタクシーが、行きのタクシーと同じという偶然と、「坊や、これかい?」と小粋に見せてくれた運転手さんの格好良さが強く印象に残っています。

 今になって、よくよく考えてみると、行きのタクシーで落として、帰りのタクシーに乗るまで落としたことに気付かない私の天然さが際立つエピソードだなあと思いつつも、落としたのも気付いたのもタクシーの中、しかも同じタクシー、という奇跡に感動してしまったりします。運転手さんのことを思い出すと、シブくて優しい高倉健さんに似ているかもと、思ったりするのは、思い出を美しくしたいという私の気持ちからかも知れません。思い出って、いいですよね。
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